大きな手に包まれて。
「もうつかれたー、、」





握っていたペンを放り出し、うんと伸びをする。





黒に統一された部屋。




壁の向こうからは車が走る音や、小学生の楽しそうな笑い声が聞こえる。





「どこまで進んだ?」





そう言い、机の上に開かれている課題をめくる。





次々とめくられていくページ。





それを操る細く、でもごつごつ男の子っぽい指。





(いいなぁ、簡単に触れてもらえて。)





手を伸ばせば届くのに。





いざそうしようとすると、急に気持ち悪いかな?嫌われちゃうかな?とか考えちゃって…





伸ばしかけた手はギュッと握りしめられた。





「あと少しだね千沙都(ちさと)のわりには早いじゃん。」





彼は本当に思ったことしか発しないから、よけい言葉が胸に刺さる。





「頑張ったね。」





さっきまで見つめていた手が私の頭に乗る。





軽く2回動き、彼は笑顔を浮かべる。





自分には恥ずかしすぎて出来ないことをあっけなくされ、一気に熱が顔に集まる。





それがバレないように言葉を紡いだ。





(しょう)はどうせもうすぐ終わっちゃうんでしょ?」





学年1位と下から1桁。





どうやったらこんなに差が出来るのか…





住んできた土地も、吸ってる空気も、やってきた習い事も…





ほとんどの時間を共に過ごしてきたはずなのに。





いつだって私たちは真逆。





「ここが課題になること予想してたからさ。」





当たり前のように答えられる。





ちょっとムカつくけど…





そこも含めて好きなんだ。






「ほら、終わらせるよー」





机に落ちたペンをその綺麗な指が掬い上げ、私の手に移る。





「めんどくさいなぁ」





そんなこと言いながら嬉しさが滲み出てしまう。





難しい問いに格闘している間に彼は終わったらしく、飲み物を取りに行ったり、明日の予習をし始めていた。





一方私はそう簡単に終わるはずもなく、





倍以上の時間をかけ、ようやく最後の問いを解くことが出来た。





「やっと終わったー、、」





勉強という名の地獄からの解放。





明るかったはずの空には月が浮かんでいた。





「お疲れ。」





そう言ってまた私の頭をポンポンと叩く。





小さいときから褒める代わりにする動作。





テストでいつもよりいい点とったときや、





体育大会のリレーで1位とったとき…





数えきれないほど頭を叩かれてきた。





いつまでも子供扱いされてるようで不満だけど、





それをされるために頑張れる。





明日もまた、
キミのその大きな手でさわってもらえるように





苦手なことでもやるんだ。









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