因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
「私も、これからは着物を身に着けた方がいいでしょうか?」
タクシーで醍醐家へ向かう途中、後部座席で隣り合う彼に尋ねた。
腕組みをして静かに目を閉じていた光圀さんが、そっと目を開いて私の方を向く。
「着付けはできるのか?」
「週一回の着付け教室にふた月通っただけなので、すんなりとはいきませんが……」
光圀さんと結婚するにあたって、着物の着付けだけでなく、礼儀作法や香道の基本を私なりに勉強した。
どれも付け焼刃でしかないけれど、知識ゼロで嫁ぐよりはいいかなと思ったのだ。
「それなら、忘れないうちに繰り返し練習するためにも、着てみることを勧める。ただし、慣れないうちは帯の締め付けを苦しく感じたりするだろうから、無理をしない程度に」
「わかりました」
着物は確かに苦しい。結婚式の衣装だから特別重かったとはいえ、今日一日で嫌というほど思い知った。
式での色々な重圧や緊張を思い出し、思わずため息をつく。
「今夜はなにもせず休むといい。明日あらためて、和華を皆に紹介する」
私の疲労を察した光圀さんが、しっとり落ち着いた声で言い聞かせてくれる。
優しい心遣いは、私への懺悔の気持ちの表れだろうか。つい勘ぐってしまうけれど、今夜は本当に疲れているので、甘えさせてもらおう。