因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました

「いやっ……!」

 とっさに両手を前に出し、太助くんの胸をドンと押した。

 戸惑いと微かな恐怖で体が震え、ドクドクと鼓動が騒ぐ。私は下唇を噛み、睨むように彼を見つめた。

「どうして?」

 混乱しながらも問いかけると、太助くんはフイッと目を逸らす。

「別に……したくなったからしようとしただけです」
「そんな……。だって私は、あなたの師匠である光圀さんの――」
「僕は野良犬だって言ったでしょう。人のものでも関係なく手を出す、下卑た人間なんです。今後も、家でひとりにならない方が身のためですよ」

 忠告するように言い残して、太助くんは勝手口を出ていく。

 彼の心の内がまったく読めず、恐怖で未だ震える体を、自分自身でギュッと抱きしめた。





「ううん……」
 心地よいまどろみの中、口をむにゃむにゃと動かす。心なしか窮屈な布団の中で寝返りを打つと、鼻先が人の肌らしき感触に当たった。

 うっすらまぶたを開けると、見覚えのある紺の縦縞柄の浴衣が目に入る。

 その合わせ目から覗く、張りのある筋肉質な胸も――。

 ドキッ。

 一気に覚醒した私は、おそるおそる視線を上に移動させる。そこには私より先に起きていたらしい、光圀さんの美しい笑顔があった。

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