因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
「いやっ……!」
とっさに両手を前に出し、太助くんの胸をドンと押した。
戸惑いと微かな恐怖で体が震え、ドクドクと鼓動が騒ぐ。私は下唇を噛み、睨むように彼を見つめた。
「どうして?」
混乱しながらも問いかけると、太助くんはフイッと目を逸らす。
「別に……したくなったからしようとしただけです」
「そんな……。だって私は、あなたの師匠である光圀さんの――」
「僕は野良犬だって言ったでしょう。人のものでも関係なく手を出す、下卑た人間なんです。今後も、家でひとりにならない方が身のためですよ」
忠告するように言い残して、太助くんは勝手口を出ていく。
彼の心の内がまったく読めず、恐怖で未だ震える体を、自分自身でギュッと抱きしめた。
*
「ううん……」
心地よいまどろみの中、口をむにゃむにゃと動かす。心なしか窮屈な布団の中で寝返りを打つと、鼻先が人の肌らしき感触に当たった。
うっすらまぶたを開けると、見覚えのある紺の縦縞柄の浴衣が目に入る。
その合わせ目から覗く、張りのある筋肉質な胸も――。
ドキッ。
一気に覚醒した私は、おそるおそる視線を上に移動させる。そこには私より先に起きていたらしい、光圀さんの美しい笑顔があった。