因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
「古事記……学校で習ったな。日本最古の歴史書だっけ。香道の成立は室町時代なのに、それより前のことも勉強しなきゃならないんだ」
日焼けで赤茶けている表紙をめくると、学生時代に大嫌いだった漢文がずらっと並んだページが目に飛び込んできた。
拒否反応で、思わずパタンと本を閉じる。
前に源氏物語を勉強した時は、光圀さんが古典初心者の私に、わかりやすい現代語訳の本を用意してくれた。
けれど光圀さん自身は、古文も漢文もなんなく読めるらしい。
クリスマスや誕生日といった楽しい行事を我慢する代わりに、子どもの頃から香道家になる努力をしていたんだろう。光圀さんは本当にまじめで勤勉な人だ。
感心しながら古事記を書架に戻し、次の書物を手に取る。
【醍醐家 家訓】
いつの時代から受け継がれているのか、所々擦り切れて古事記よりボロボロだった。
「やっぱり、由緒正しい家には家訓とかあるんだ……」
ぺらりと一枚開くと、漢字かな交じりの文章が並んでいて、私でも読めそうだ。
【醍醐流香道の家元となる者、常に己を脚下照顧すべし】
脚下照顧……初めて見た四字熟語だ。
足もとを照らして顧みる。自分をよく振り返って反省しろってことかな。