因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました

「よかった、光圀さんが出張で」

 パタパタと手で顔を仰ぎながら、思わず呟いた。

 実は今、光圀さんは不在。

 今夜『日本の伝統文化の発展と継承』という名目のパーティーに出席するため、昼頃に家を出て、新幹線で雪深い金沢に向かっているのだ。

「和華さん」

 その時、蔵の入り口から私を呼ぶ伊織さんの声がした。

「は、はーい!」

 返事をして出ていくと、彼は近所の団子屋の紙袋を持った手を掲げる。

「団子を買ってきましたので、一度休憩にしましょう」
「やった、ありがとうございます。私、お茶淹れます」

 庭を通って母屋に入り、食堂へ向かう。そこでは、太助くんが台所のシンクで換気扇を洗っていた。

 伊織さんは他の家政婦を呼びに、勝手口から出ていく。

「お疲れさま。伊織さんがお団子買ってきてくれたから、休憩にしない?」

 お湯を沸かすついでに、シンクに立つ彼に声をかける。

 キスをされそうになって以来、太助くんと話す時は若干気まずいのだが、彼はいつも通りの冷めた態度で、意識している様子はない。

 なので、私もできるだけ普段通りの態度で話しかけるようにしている。

< 116 / 230 >

この作品をシェア

pagetop