因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
「よかった、光圀さんが出張で」
パタパタと手で顔を仰ぎながら、思わず呟いた。
実は今、光圀さんは不在。
今夜『日本の伝統文化の発展と継承』という名目のパーティーに出席するため、昼頃に家を出て、新幹線で雪深い金沢に向かっているのだ。
「和華さん」
その時、蔵の入り口から私を呼ぶ伊織さんの声がした。
「は、はーい!」
返事をして出ていくと、彼は近所の団子屋の紙袋を持った手を掲げる。
「団子を買ってきましたので、一度休憩にしましょう」
「やった、ありがとうございます。私、お茶淹れます」
庭を通って母屋に入り、食堂へ向かう。そこでは、太助くんが台所のシンクで換気扇を洗っていた。
伊織さんは他の家政婦を呼びに、勝手口から出ていく。
「お疲れさま。伊織さんがお団子買ってきてくれたから、休憩にしない?」
お湯を沸かすついでに、シンクに立つ彼に声をかける。
キスをされそうになって以来、太助くんと話す時は若干気まずいのだが、彼はいつも通りの冷めた態度で、意識している様子はない。
なので、私もできるだけ普段通りの態度で話しかけるようにしている。