因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました

「太助、お前……っ」

 そして見たことのないような怒りの形相で手を振り上げ、太助くんの頬を張った。

 パシン、と乾いた音が蔵の中に響き、太助くんの頬が赤く染まる。

 太助くんは頬を張られたままの体勢から微動だにせず、なにを考えているのかわからなかった。

 伊織さんは目に涙をため、怒りと悲しみがないまぜになったような、震える声で話しだす。

「先生はお前のすべてを知っていて、それでも弟子にしてくれたというのに……どうしてそんな恩人を裏切るようなことをする?」

 太助くんの体がゆらりと動き、彼はようやく顔を上げた。その表情には困惑の色が浮かんでいる。

 伊織さんは、彼をまっすぐに見つめて言った。

「先生も、俺も……最初から知っていた。お前の窃盗の前科は」
「えっ……?」

 太助くんの目が、大きく見開かれた。

 太助くんは、前科を隠して弟子になったと言っていた。しかし光圀さんは、彼に前科があることを知っていたのだ。

「先生が、知ってる?」
「そうだ。入門の際に、身上調査がされている」
「嘘だ。だったらどうして……!」

 太助くんが取り乱したように伊織さんに詰め寄った直後、今度は伊織さんが逆に太助くんの胸ぐらをつかんだ。

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