因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
「やがて父親が亡くなって介護の必要がなくなっても、働く気力はとっくに奪われていた。それでも人間、腹は減る。だから、お前は罪を犯した。……先生は言っていた。自分が同じ立場に立たされた時、お前の犯した罪を自分がやらないとは言い切れない。お前のような者にこそ、香道で心を鍛えることが必要であると。それでもお前という人間が変わらないようなら醍醐流はその程度……先生はそこまで仰っていた。お前が更生するのを、先生は心から信じていたんだ」
光圀さん……。
醍醐流香道を極めるために努力を惜しんでこなかった彼だからこそ、香道が人の精神に与える力を信じ、太助くんを受け入れようと思ったのだろう。
その深い覚悟と彼の器の大きさに、ますます尊敬の念が湧いた。
「じゃあ、僕は……ずっと恩をあだで返すようなことを……?」
初めて知る事実に、太助くんが愕然とする。伊織さんは彼の前に一歩歩み寄り、厳しい口調で告げた。
「先生が帰ってきたら、ありのままを話して謝罪するんだ。それでも、先生がお前を許すとは考え難い。大切な奥様に乱暴を働こうとしたんだから当然だ。破門を覚悟しておけ」
「……はい」