因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
「いいですよ。お安い御用です」
断る理由がないし、何よりうれしかった。たとえ愛情がなくても、光圀さんが私との連絡を弟子任せにはしたくないと思ってくれたことが。
「じゃ、よろしく頼む。しかし、なぜ笑ったんだ?」
「ふふっ。秘密です」
また思い出し笑いがこみ上げ、肩が小刻みに揺れる。
光圀さんは不思議そうにしつつも微かに口角を上げると、ふいに私の髪を一束耳にかけ、顔を覗き込んできた。
「まあいい。きみが笑ってくれればくれるほど……この結婚には意味があったんだと信じられるからな」
慈しむような眼差しに、優しい声音。それらにまたしても彼の罪悪感が溶けている気がして、胸がきゅっと締めつけられた。
「光圀さん。私、あの時のことは別に――」
「きみがどう思っているかは関係ない。俺がきみを傷つけたという事実は消えないんだ」
私の言葉を遮るようにして、光圀さんが厳しく言い募る。
一瞬にして車内の空気が重苦しいものとなり、私たちはさりげなくお互いから顔を背け、窓の方を向いた。
目線の先に、浅草の下町情緒あふれる夜景とスカイツリーが見える。
光圀さん、綺麗ですよ。小さな頃はスカイツリーなんてなかったのに、今では当たり前の景色になりましたね。
笑ってそう話しかけたいのに、できない。
そんな、新婚初夜の雰囲気とはほど遠い気まずい時間は、醍醐家に到着するまで流れ続けた。