因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
『今の時代、不倫をした有名人ってネット上で袋叩きに遭うじゃない? その対象が、浮世離れした生活を送る香道家の醍醐先生ならなおさら、世間は正義を振りかざして彼を叩くでしょうね。それが私の目的なの』
なるほど、太助くんを私にけしかけたのも、似たような理由なのだろう。
有名な香道家の妻が、夫の目を盗んで弟子と逢瀬を繰り返す。週刊誌が好んで扱いそうなネタだ。
しかし、彼女が自分で手をくだすとなると、その火の粉は彼女自身にも降りかかってしまうから、意味がないのでは……?
「それでは、空木先生も窮地に立たされると思いますが」
『甘いわね。酩酊したところを無理やり襲われたとか、ちょっと被害者ぶれば、世間は簡単に騙されてくれるわ。それに、叩く対象としておもしろいのはどっち?』
そんなの、どちらもおもしろいはずがない。光圀さんが不倫したとして、本気で腹を立てて彼を罵っていいのは、妻である私だけだ。
心の中で反論するものの、空木先生に軽くあしらわれるのは目に見えているので、声には出さなかった。