因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
『醍醐流は先生のビジュアルだけで最近やけに人気が出ていたようだけれど、このことで醍醐流も醍醐万斎の名も汚れ、地に落ちる。香道の世界からも追い出され、その空いた隙間に空木流が収まり、私は家元として空木流を再興させる。そのためならなんだってするわ』
「そんな……」
家元として野心があるのは当然かもしれないが、そんなやり方で空木流の地位を上げたところで、彼女は満足なのだろうか。
『少しお喋りが過ぎたみたい。それじゃ、ごきげんよう』
空木先生は余裕たっぷりに言い残し、電話を切った。
彼女には強気で光圀さんを信じる発言をしたものの、スマホを耳から離した瞬間、私は思わず伊織さんを見つめ、情けなく眉尻を下げる。
「ど、どうしましょう……! 空木先生、光圀さんをべ、ベッドに誘うって……」
「和華さん、落ち着いてください。先生に連絡を取ってみましょう」
「あっ、そうですよね」
伊織さんに諭され、書架の空いたスペースに置いていた自分のスマホを手に取る。震える指で履歴から光圀さんの番号を選び、発信した。
出てくださいと祈るも、耳元で流れるのは規則正しいコール音ばかり。
一度切って、かけ直す。長いコール音は、やっぱり途切れない。