因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
「いえ、伊織さんのせいではありませんよ。でも、気になることがひとつあって」
「蔵を閉めた人物、ですよね?」
実は、蔵を出る前太助くんにも同じことを聞いたのだ。
しかし驚くことに、彼自身も、あのタイミングでなぜ蔵の扉と鍵が閉まったのかわからないそうだ。
「そうです。太助くんと協力し合っていたのは空木先生ですが、彼女は金沢にいるわけだから無理ですし」
「……そう、ですね」
伊織さんは顎に手を当てて思案顔。結局答えは出ないまま、母屋に到着した。
「そろそろ夕食の時間ですね。食堂にご一緒しましょうか。まだおひとりでは落ち着かないでしょう」
「お気遣いありがとうございます。でも、今はなにも食べられそうもないので……部屋で休ませていただきます」
「わかりました。お腹が空いたら言ってくださいね」
伊織さんは食事を無理強いせず、ひとりで食堂に向かった。
自室に引っ込んだ私は、布団を敷いて横になる。
スマホを手に、何分か置きに光圀さんに電話しては、出てもらえなくて落ち込む、その繰り返し。
「光圀さんに、会いたい……」
仕事があっても、今までは毎日そばにいた。離れるのがこんなに苦しいなんて知らなかった。空木先生にちょっかいを出されるのも困るし、嫌だ。
せめて、電話に出てくれればいいのに……。
こんな気持ちになるなら、もっと早くに彼にすべてを許していればよかった。
うんともすんとも鳴らないスマホを胸に抱き、静かに涙をこぼす。
光圀さんのいない夜は、今までで一番彼が恋しくて、苦しくて。
私は光圀さんが好きなんだと、止まらない涙を指で拭い、思った。