因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
懐かしい恋心――side光圀
昔から、金沢はとても好きな美しい街である。
江戸時代、加賀藩の城下町として栄えた頃の街並みが残り、その時代に生きていなくとも、懐かしい気持ちを呼び覚ます。
令和という新しい時代を迎えても、未だに着物に身を包み、文は墨と筆でしたためる時代遅れの俺だからこそ、余計にそんな感覚を覚えるのかもしれない。
――が、俺だって時代に後れを取っているばかりではないのだ。
金沢駅を出てすぐ、手荷物から出したのは令和の最新機器、スマートフォン。最近では略してスマホと呼ぶようになった。
和華からの連絡が特にないのを確認してから、背後を振り返って巨大な鼓門をカメラで撮影する。
周囲の雪景色と相まって、情緒ある一枚が撮れた。
珍しい景色だから、和華にも見せてやろう。そう考えるだけで自然と口角が上がる。
しかし、パーティーの最中にスマホに気を取られるわけにもいかないので、俺はタクシーに乗り込んで和華に写真を送った直後、彼女に教えられた側面のスイッチを切り替え、スマホを消音設定にした。