因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
「ありがとうございます。ああ、そろそろ始まるようですよ」
用意されたステージに主催者が立ったのを見て、俺はそっと彼女と距離を取る。
空木先生は少し残念そうな顔を見せたが、俺は彼女を振り返らず、主催者の話に耳を傾けた。
立食形式のパーティーが始まると、空木先生はまたしても俺に近づいてきた。
知り合いがいなくて心細いせいかもしれないが、愛想笑いを返すのにも少々疲れてきた。
過剰なボディタッチや媚を売るような上目遣いも多く、段々と胃もたれのような胸のむかつきを覚えてくる。
「先生、長芋とオクラの酢の物がありますわ。精がついちゃいますね」
空木先生がクスッと笑いながら、テーブルに並んだ小鉢を取ってくれる。
親切で薬膳的な話をしているのだろうが、俺にとっては迷惑でしかなかった。
長芋もオクラも、ねばねばトロトロした食感が大の苦手だ。
妻である和華には素直に明かしたものの、こういった場で大人げない真似はできない。