因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
「ご親切に、どうも」
この料理を作った板前には申し訳ないが、俺はひと思いに酢の物を口に入れ、ほぼ丸飲みにした。
……これも修行の内。と、暗示のように自分に言い聞かせ、激しくせき込みそうになるのを堪えた。
それだけでもかなりの苦行だったが、加えて会場の若い女性参加者たちから熱い視線を送られるのも不快だった。
「あれが醍醐万斎先生? 噂には聞いていたけど、国宝級のイケメン……」
「しかも浅草の大地主らしいわよ。結婚したって聞いたけど、愛人でもいいから、ちょっぴり土地を分けてくれたりしないかしら」
パーティーの騒がしさに紛れて、時折品のない会話が聞こえてくる。
かと思えば空木先生が俺の着物を引っ張って「この後、お時間ありますか?」と、わざとらしくひそめた声で尋ねてくる。
いい加減辟易した俺は、目の前の現実から逃れるように和華の顔を脳裏に浮かべ、思わず〝帰りたい〟と願った。
パーティーで得られる人脈や情報はこの際どうでもいいから、ただ和華の顔を見て癒されたかった。