因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
「私は光圀さんのお祖父様の代からこの家に勤めている家政婦で、年齢は一番下ですが家政婦歴は最も長いんです。光圀さんもとても信頼してくださっているので、くれぐれも勝手なことをされないでくださいね」
「そうでしたか。楓子さん、ご親切に呼びに来てくださりありがとうございました」
なんとか笑顔を作って、ぺこりと頭を下げる。
どうやら楓子さんは私をよく思っていないらしい。完全にマウント取られたよね、今……。
「八時になっても起きてこないんですもの、呆れて呼びに来ただけですからお気になさらず。では」
そんな嫌味を言い残し、楓子さんは襖を閉めて出ていった。
張り詰めていた緊張が解けて、思わず深いため息を吐く。
「傷物の嫁か……」
無意識に伸ばした指先が触れるのは、前髪に隠れた額にある、火傷の跡だ。
今は痛くも痒くもないけれど、火傷した当時は水ぶくれが赤くただれ、人には見せられない状態だった。
額とはいえ顔の一部なので、鏡を見るのがちょっと怖かった時期もある。
治りかけの時にうっかり前髪をかき上げたら、同級生の男子に気味悪がられたっけ。