因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
「一色さん」
俺はまっすぐに、和華の父親である彼を見つめた。
「一式問屋に出資する代わりに、娘の和華さんと結婚させてください」
俺が彼女の人生を台無しにしたのだとしたら、死ぬまで彼女を自分のそばに置き、できる限りの望みを叶える。
それが俺にできる最大の贖罪で、彼女を一生大切にすることは自分にとって義務なのだと、俺はその時覚悟したのだった。
* * *
『次は、上野、上野でございます。お降りのお客様は――』
新幹線の車内アナウンスで、ハッと目が覚める。
もう、上野に着いてしまうとは……ずいぶん長い夢を見ていたようだ。
少々ぼんやりする頭を軽く振ると、隣の座席から子どもが聞こえてくる子供の泣き声に気が付いた。
しくしくと洟を啜っているのは、四歳くらいの女の子だ。
「次、いつおばあちゃんに会える……?」
「そうね、夏休みかしら」
「明日は?」
「今帰ってきたばかりじゃないの。金沢って遠いのよ?」
女の子の隣にいる母親が、少々疲れた顔で女の子を諭す。
俺が寝ている間も同じやり取りを繰り返したのであろう、母親の顔には疲労がありありと浮かんでいた。