因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
「僕は……」
太助くんの唇は、震えていた。本心を打ち明けていいのか迷っているように、閉じたり、開いたりを繰り返す。
光圀さんは決してせかしたりせず、彼の返事を待っていた。
やがて根負けしたのは、太助くんの方だった。
「……続け、たいです」
声を発するのと同時に、色素の薄い彼の目から、つうっと涙がこぼれる。
「香道を、勉強したいです……先生のもとで、ずっと」
ようやく本音を吐露した彼に、光圀さんの目が、まるで我が子を見るように優しく細められる。
「お前のこと、俺はもっと気にかけて見てやるべきだった。これからは、伊織とともに俺の一番そばで学ぶといい。しかし、〝ずっと〟というのは困る。いつかはひとり立ちしてもらわなければいけないからな」
「先生、しかし、僕は、和華さんにひどいことを……」
「今回だけだ。二度目があれば、俺はお前を許さない」
緊張感を含ませた声で、光圀さんが釘を刺す。
太助くんは震えていた唇をピッと引き結ぶと、もう一度深々と彼に頭を下げた。