因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
「ありがとうございます、先生……」
「もういい。下がって、伊織に仕事を乞え」
「はい!」
太助くんは弾かれたように立ち上がり、門の中へと駆けていく。その姿を見送ると、光圀さんの瞳が今度は私に向けられる。
「なぜ、きみが泣く」
呆れたように笑った彼が、私の頭の上にポンと手を置く。
はずみでぽろぽろと涙がこぼれ、私は泣き笑いを浮かべて彼を見上げた。
「だって、よかったなぁって。太助くんが香道を続けられることになって」
「和華はいつも、自分より他人を優先するんだな」
「そうですか? 自分では全然そんなつもり……」
「そんなきみだから、惹かれた」
ふっと優しい笑みを浮かべてそう言った光圀さんの顔が近づき、唇が軽く触れた。
ドキン、と鼓動が鳴り、一瞬にして体中が熱くなった。
「光圀さん……?」
「俺の部屋へ行こう。帰ったら話したいことがあると言っただろう?」
光圀さんは甘い声で囁くと、私の背中に手を添えて門の中へ進んでいく。
そうだった。私も伝えなくちゃ。一日ぶりの再会に舞い上がって忘れていたけれど、告白しようって決めたんだから。