因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
別居中の悩み――side光圀
冬の入り口が近づいてきた、十一月下旬。もうすぐ和華と結婚してから一年になるが、俺は未だかつてないほど気分が塞いでいた。
「先生、お食事の準備が整いました」
「必要ない」
いつも夕食を取る時間に伊織が俺を部屋まで呼びに来たが、俺は文机に向かったままそっけなく返事をした。
「朝も昼も召し上がらなかったじゃないですか。このままではお体に障ります」
「いいんだ。本当に、腹が減っていない」
「先生……あとで軽い食事をお持ちしますから、それだけでも」
「……わかった。すまないな、気を遣わせて」
襖を開けたまま正座をする伊織を振り返り、軽く笑ってみせる。
しかし、伊織は気の毒そうな顔で目礼すると、スッと襖を閉めて廊下に消えてしまった。
哀れな男だと思われているのだろう。師匠の威厳もなにもあったものではないが、今回ばかりはどうしても自分の気持ちを取り繕えない。
まさか、和華と別居することになるなんて……。
大きくため息をつき、文机に置いたスマホを手に取る。さっきから何度も同じ行動を繰り返しているが、和華からの連絡はない。
「元気にしているだろうか……」
和華の身を案じて、弱々しく呟く。俺たちはどうしてこのような状況になっているのか。
思い返すのは、十一月に入ったばかりのある日のことだ。