因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
『えっ?』
『あなたのお父様も、奥様がお腹にあなたを身籠ったと知った時、そんな風にぽかんとしていました。それから徐々に幸せそうな微笑みを浮かべるお父様を見て、私はとても……とても、苦しかった』
母が俺を身籠ったのは、もう三十年以上昔のことになる。しかし、楓子さんはまるで今でもその苦しみを引きずっているかのように、声を震わせた。
彼女のそんな様子を見て、少し前から抱いていた疑念がさらに深まった。
あの父がそんな不道徳なことをするはずがない。そう思う反面、楓子さんが父に対して抱く感情は、家政婦としてのそれを逸脱している。ふたりの関係はいったい……。
『楓子さん、あなたは父の愛人だったのですか?』
そうだとしても、今さら彼女を責めたり、反省を強要したりしたいわけではない。
ただ事実を知りたいのだと主張するように、淡々と尋ねた。
楓子さんは長い睫毛を伏せ、ゆっくりかぶりを振る。