因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました

『そうだったらよかったのだけれど……私の一方的な片想いです。お父様は生きている間も、そして死ぬ時までも、あなたのお母様ひと筋でしたよ。それは光圀さんもよくご存じでしょう?』
『……ええ』
『お母様が急逝されて喜んでいたわけではないけれど、亡くなった人をいつまでも思っているなんて不毛なことでしょう? 私、神様がチャンスをくれたって思ったの。これからは私が彼を支えていくんだって、強い使命感まで芽生えたわ。でも……彼は、最後まで奥様を愛し抜いた』

 母の後を追うように、酒に溺れて亡くなった父。一途に母を想っていたからこそ、あのような悲しい結末を迎えた。

 楓子さんがどれほど打ちのめされたかは、想像に難くない。

『それでも、私はあの人を忘れられなくて……今度は、お父様そっくりなあなたに執着し始めた。だから、和華さんを娶ると聞いた時は平静ではいられなかったわ。お父様の面影を残すあなたには、どんな女性も近づいてほしくなかった』

 楓子さんがそれほど激しい感情を胸に秘めていたとは気づかず、俺は絶句した。

 少々お節介な忠告や過干渉は、息子のように扱われているのだと思って気にも留めていなかった。

 しかし、父に抱いていた叶わぬ恋心は、いつしか歪んだ形で俺に向けられていたのだ。

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