因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
『えっ?』
『光圀さんの、着物の香りが……うっ』
和華はそう言って、パッと俺から顔を背けた。
いつもなら、俺の纏う香りにむしろ愛着を感じているように振舞う和華が、まるで耐え難い悪臭を嗅がされたかのように、吐き気を堪えている。
悪阻のせい、なのか?
なんとなくそうだろうと予想できても、突然拒絶されたショックで呆然とする。
すると、背後の襖を開けて先ほどの家政婦がやってくる。
彼女は俺たちの姿を交互に見て状況を察したようで、和華に寄り添いながらも心苦しそうに俺を見た。
『先生、悪いんだけど部屋から出てくださいます? 和華さん、香木やお香の匂いが全部ダメになってしまったみたいで』
『……あ、ああ。承知した』
すごすごと和華の部屋を辞し、トン、と襖を閉める。
苦しんでいる彼女のそばにいられない。それどころか、俺の香りが和華を苦しめる。
夫婦にとって待望の妊娠だったはずなのに、俺は自分の無力さに打ちひしがれ、意気消沈した。