因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました

 その後も和華の悪阻が軽快することはなく、彼女は次の週から実家に帰ることになった。

 様々な香の香りで満ちている醍醐家にいることが、今の和華には耐えがたいそうだ。

 一式問屋も香を扱う商店ではあるが、店と住居とは別の建物。醍醐家ほど香りに悩まされることは少ない。

 そうして夫婦で別居するようになり、さらに一週間。

 見舞いに行きたいが、別居を始めた当初【トイレにこもってばかりなので無理です】と和華本人に拒否されてしまい、メッセージのやり取りすらままならない切ない日々が続いている。

 気分転換に筆を取り、子どもの名づけでもしようかと思うものの、それもやはり和華と相談して決めたいと思うと、結局気が乗らない。

 冷静沈着、何事にも動じない醍醐万斎はどこへ行ったのだろう。

 他人事のようにそう思い、文机の上にだらしなく頬杖を突いたその時だ。

 ピロン、と久しぶりにスマホが高らかな音を鳴らし、俺は素早く通知を確認した。

 百年待ちわびた気がするほど久しぶりの、和華からのメッセージだ。

【今日はちょっと調子がいいです。明後日の結婚記念日、会いたいな……】

 会うさ。会うとも。会うに決まっているじゃないか。

 胸の内でしつこいくらいに畳みかけ、歓喜に震える指で返信を打つ。

< 214 / 230 >

この作品をシェア

pagetop