因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
【ちゅっ】
そのかわいらしい三文字を目にした瞬間全身がカッと熱を持ち、たまらない気持ちになった。
以前、金沢のパーティーで対峙した空木先生に『男女関係に勝ち負けはない』と偉そうに語った記憶があるが、些細なひと言で俺の心をいとも簡単にさらっていく和華に対しては、もう降参だと白旗を上げたくなる。
【ありがとう。今のキスで、明後日までなんとか耐えられそうだ】
【よかった。会えるの、楽しみにしていますね】
メッセージのやり取りを終えると、ふさぎ込んでいたのが嘘みたいに心が軽くなっていた。俺もたいがい単純な男だ。
ふっと自嘲をこぼしてスマホを机に置いたその時、襖越しに伊織が俺を呼んだ。
「先生、お食事をお持ちしました」
「ああ、ありがとう」
返事をすると、スッと襖が開く。
伊織は握り飯と味噌汁、だし巻き卵がのったお盆を、俺の傍らに置いた。
「ちょうど腹が減ったところだ」
「よかったです。……あ、もしかして和華さんからご連絡が?」
「どうしてわかる」
「それは、先生の表情を見ればなんとなく」