因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
「和華、光圀さん来たわよ~」
ノックとともに母に呼び掛けられ、鼓動がジャンプした。
「どど、どうぞ!」
緊張ぎみに返事をして、ドアに歩み寄る。ガチャリとドアを開けた母の後ろから、光圀さんの長身がぬっと現れた。
「久しぶりだな」
ふわりと目元を緩めて微笑んだ彼に、頬がぽっと熱を持った。
「は、はい。それはそうと、光圀さん、その格好……」
思わず、頭のてっぺんからつま先まで、まじまじと見つめてしまう。
香道のお点前をする時も、パーティーに参加する時も、普段の私服も寝巻も、光圀さんは和服しか着ない。それなのに、今日の彼は――。
「似合っていないか? 全て新品だからな。服に着られている自覚はある」
「いえ、むしろ逆というか……とってもお似合いです」
ネイビーのジャケットに優しいベージュのニット、黒のテーパードパンツ。
大人っぽいカジュアルスタイルに身を包んではにかむ光圀さんは、なんだか別人に見える。
「やだわ、和華ったら見惚れちゃって」
冷やかすように母に言われて、ようやくハッと我に返る。