因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
「お、お母さんはもういいから……!」
「はいはい。お夕飯の準備ができたら呼ぶから、それまでどうぞごゆっくり」
「ありがとうございます」
服の感じはいつもと違っても、母に頭を下げる時の綺麗な所作はいつもの光圀さんだ。
パタンとドアが閉まると、光圀さんがスッと私の頬に手を伸ばし、触れる。
「今日は大丈夫か? 俺の匂い」
「はい。……そういえば、いつもの香りがしません」
「よかった。新しい服一式で来た甲斐がある。銭湯にも寄ってきたしな」
光圀さんがそう言ってかき上げた髪は、よく見るとまだ少し濡れてキラキラしていた。
そっか、だから着物じゃないんだ……。
つわりの私を気遣ってくれたのもありがたいし、滅多に見れない洋服姿の光圀さんを見れて、得した気分だ。
「あっ、立ち話もなんですから座ってください」
「ありがとう。和華は横になっていなくて平気か?」
「はい、今は――」
そう答えている途中で、微かに気分が悪くなって口もとに手を当てた。