因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました

 彼女が光圀さんのお父様に思いを寄せていたこと、そして、お父様によく似た光圀さんの妻となった私を疎ましく思っていたこと、彼女が私と太助くんを蔵に閉じ込めた人物であったこと――それらは少し前に光圀さんから教えられていた。

 でも、彼女は私が初めてつわり症状を感じて体調を崩した時、親身になって私を介抱し、病院にまで付き添ってくれた。

 その時、この人は根っから悪い人じゃないって思ったんだ。

 三日前に醍醐家を出たそうだけれど、その足で私のお見舞いにも来てくれた。

「楓子さんがお見舞いに来てくれた時に、これを」

 柚子の香りで幾分楽になった私は、ハンカチと一緒にサイドテーブルに置いてあったアロマオイルの小瓶に手を伸ばし、光圀さんに見せる。

「こんなものじゃ罪滅ぼしにならないだろうけどって……でも、柚子の香りを嗅ぐと本当に体も心も安らぐので、今では大切なお守りになりました。いつかまた会えたら、改めてお礼を言いたいな」
「そうだな」

 微笑んだ光圀さんが私の髪に触れ、優しく撫でる。

 久しぶりのスキンシップに胸がときめいて、私は頭をゆっくり傾けるとそっと彼の肩にもたれかかった。

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