因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
赤褐色の吾亦紅、オレンジ色のスプレー菊、ふわふわした黄色のケイトウ。
リクエスト通りの秋らしい色合いは、醍醐家の和室に自然と溶け込むだろう。
「嬉しそうですね。花なんて食べられないのに」
「それでも、花は見て楽しめるし、香りもそれぞれに違って面白いじゃない。太助くんだって、香木の持つ一期一会の香りを聞き分けられるようになりたくて、光圀さんに弟子入りしたんじゃないの?」
つまらなそうに進行方向を眺める太助くんに、ずっと気になっていたことを尋ねた。
香道を学ぶ立場なら、季節の移ろいを感じられる花の香りにも、本来は興味を持つはず。
なのに、太助くんからはまったくその姿勢が見えないのは、どうして?
「……ああ、そういえばそうでした」
ふっと鼻を鳴らして笑った後、太助くんがぼそりと呟いた。自分のことなのに、まるで他人事みたい。
怪訝に思っていたら、太助くんが少し得意げな目で私を見下ろした。
「こう見えて僕、香りを聞き分けるのは伊織さんより得意なんです」
彼の口から香道の話が出るのは初めてだ。
心を開いてくれたのかもと嬉しくなって、自然と頬が緩んだ。