因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
「そうなんだ。すごいね、太助くんの方が後輩なんでしょう?」
「はい。僕の方が三年遅い入門なので」
「じゃ、生まれつきの才能なのかもね。太助くん、料理も上手だし元々嗅覚が鋭いのかも」
感心しながらそう言った瞬間、太助くんがぴたりと歩みを止めた。
一歩前に出た私が彼を振り返ると、彼はつらそうに眉根を寄せ、自嘲する。
「……違いますよ」
「えっ?」
「僕は野良犬と同じ。だから、人より少し鼻が利く、それだけです」
抑揚のない声で吐き捨てると、太助くんは私を追い越して先を歩いていく。
野良犬……? どういう意味?
慌てて彼を追いかけ再び横に並んだけれど、厳しい横顔がどんな質問も拒否しているように見え、結局彼の発言の真意を尋ねることはできなかった。
醍醐家に帰ると、私はさっそく買ってきた花を花瓶に活けた。
文机のそっけない印象がパッと明るくなり、私は思わずスマホのカメラを向ける。
「そうだ、光圀さんにも写真を送ろう」