因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
隣に座る柴田さんが、バシッと私の肩を叩く。六十代の柴田さんは、夫を亡くした三年前から醍醐家で住み込みの家政婦をしているそうだ。
ふたりの子どもはすでに独立しており孤独な老後に不安を抱えていたが、ここへ来てからは日に日に元気を取り戻していったらしい。
確かに、若い私よりもよっぽど快活だ。
「夜這い……」
ボソッと呟き、光圀さんの部屋に忍び込む自分を頭の中で想像した。
光圀さんはきっと遅くまで読書かなにかをしていて、その本から彼が目線を上げた瞬間、私はスルッと服を脱ぐ。驚いて目を見開く彼にゆっくり近づいて、そのまま無言でキスを――。
と、私の想像は唇が触れ合う前で終わった。というか、経験がないのでできなかった。
仏前結婚式では誓いのキスもなかったため、私と光圀さんは夫婦としての儀礼的なキスすら交わしていない。本当に、書類上夫婦になったというだけなのだ。
思わずため息をついていたら、柴田さんがひそひそ耳打ちする。