因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
「一色さん、改めて、大切な看板娘の和華さんとの結婚をお許しいただき、ありがとうございます」
注がれたビールを軽く飲んで、光圀さんが応える。
父はブンブン首を左右に振り、「いいんですよ」と笑った。
「こちらこそ、資金援助の件、本当にありがとうございます。江戸から続いた一式問屋を、俺の代で潰してしまうところでした」
「一式問屋が潰れたら、質の良い香木の入手経路をひとつ絶たれてしまいますから、私も困るんです。家元として醍醐流を継承していくためには、香木の産地である東南アジアの業者と長年信頼関係にあるあなたのお店と、香木の目利きに優れた一色さんが必要です。今後とも、お世話になります」
光圀さんが、美しい所作でお辞儀をする。父も頭頂部の薄毛をふわふわさせながら、何度も彼に頭を下げた。
私はそんなふたりを眺め、ちびりちびりとビールを舐める。
父と光圀さんの今の会話が、私たちの結婚をほとんど象徴していると言っていいだろう。
実家の一式問屋は年々経営が傾いており、あちこちの金融機関から融資を断られるようになってしまった。
それを古くからのお得意様だった光圀さんに相談したところ、彼が出資してくれることになったのだ。