因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
つたない夫婦の再スタート
「和華」
光圀さんの低い声に呼ばれ、私は重たいまぶたを開けた。
ここは……自分の部屋だ。
どうやら文机に突っ伏して寝ていたようだ。それまで、なにをしていたんだっけ?
「これは書き直し、だな」
そう言ったのは、机の傍らに正座をしている光圀さん。
ぼうっと瞬きを繰り返していた私は、ハッと我に返って手元を見る。
「ああっ……!」
机に広げていたのは、書きかけの手紙。途切れる直前の文字は、ミミズがのたくったような有様である。
午後、なにをしようかと部屋で考えあぐねていた私のもとに、楓子さんがやってきた。
そして与えられた仕事は、結婚式に参列してくれた方々への礼状の作成だった。
『どうせ、あなたはそこまで気が回らなかったでしょう?』
そんな嫌味付きだったが、確かにその通りなので殊勝に受け入れた。
醍醐家では、お世話になった相手や贈り物を頂いた相手などに、光圀さんが必ず手書きでお礼状を送るそうだ。
手紙には小さな友禅紙に粉末の香木を包んだ『文香』を同封し、相手にほのかな香りを届けるとともに、心の安らぎを感じてほしいという願いもこめられているとか。