因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました

「しかし同時に、きみがこの先ほかの男と恋愛する権利を奪ってしまった。年頃の女性らしく胸をときめかせ、男性に愛し愛される経験が、きみにはもうできない。……だから」

 着物の袖から覗く、光圀さんの引き締まった腕が、スッとこちらに伸びてくる。それから大きな手のひらが、頬を優しく包み込んだ。

「男に愛されたいと願うなら、俺を使って疑似恋愛を体験するほかない。俺は和華が望むなら全力で応じる。もちろん、肉体の交わりも含めて」

 ドキン、と胸が鳴る。触れられている頬が熱い。

 光圀さんはそこまで考えて私を妻に迎えたのだ。

 その強い覚悟が、逆に切ない――。

「私……」

 ギュッと握った拳を胸元に置いて、私は口を開いた。

 確かに、恋愛もキスもその先も経験しないまま、私は光圀さんの妻になった。

 ほかの男性によそ見をして、光圀さんの名を汚すような真似はご法度だろう。

 だけど私自身は別に、それを不自由だとは思わない。

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