因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
わぁ~っ……どうしよう。
思わず目を背けた先では、光圀さんが私の部屋にあるものと似た文机に向かっていた。
歩み寄って後ろから覗くと、私が中途半端にしていたままだった礼状の続きだった。
「あっ、すみません、私……!」
「気にすることはない。この一通で終わりだ」
筆ペンを使った私とは違い、彼の手に握られているのは本物の毛筆。
それをしなやかな動作で使いこなし、細く美しい字を便箋に書き連ねていく。
「すごい……」
「子どもの頃から習っていれば誰でもできることだ。……終わった。風呂に入るついでに道具を洗ってくる。先に眠っていて構わないから」
それだけ言い残すと、光圀さんはリモコンで照明を絞り、さっさと部屋を出ていってしまった。
ふたりで寝るのに慣れるために呼ばれたはずなのに、そっけない。
ドキドキせずに済むのはいいけれど……。
なんとなく納得できないものの、ふたつ並んだ布団の左側にもぞもぞ入る。すると不意に、昼間家政婦の柴田さんと交わした会話が脳裏に蘇った。