因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました

「寝てる……か」

 光圀さんが、小さくひとりごちる。それから、文机の方でかすかな物音がした。書道の道具を片付けているのだろう。

 少しして、彼が隣の布団に腰を下ろす気配がした。

 このまま並んで寝るだけなのに、やっぱり意識してしまう。

 お風呂上がりの光圀さんはどんな姿なんだろう。ひと目見たいけれど、今さら狸寝入りを白状するわけにはいかない。

 悶々としていると、ふと、光圀さんの指先に前髪をさらりとかき分けられる感覚がした。ドキッとして目を開けそうになるが、なんとか堪える。

「ごめん……」

 光圀さんは火傷の跡をそっと撫で、消え入りそうな声で呟いた。

 ギュッと、胸が軋む。

 私の火傷の跡なんかよりずっと、光圀さんの心の痛みの方がつらそうだ。

 我慢できなくなって、目を開ける。彼は浴衣に丹前を羽織った姿で、私の枕元に片膝を立てて座っていた。

「光圀さん」
「……起きていたのか」

 彼の手がスッと額から離れると同時に、私は上体を起こした。

 光圀さんは気まずそうに目を伏せて黙り込む。

 なんと言葉を掛けようか悩んだが、私は思い切って額にかかる前髪をぐいっと後ろにかき上げた。

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