因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました

 こういった仕事の依頼が、ここ一週間ほどで急に増えた。

 和華と結婚してからの俺は纏う雰囲気が急激に柔らかくなったと弟子たちは言い、仕事の依頼が増えたのもそのせいではないかと、彼らは勝手に想像している。

 メディアへの露出は、醍醐流のみならず、茶道や華道に比べ知名度の低い香道全般を広く知ってもらうよい機会――ではあるのだが、これは……。

「どれも、先生の見た目で視聴数を稼げそうってだけですよね」
「太助。先生に失礼だ」

 テーブルの向かいから企画書を覗いて露骨にうんざりする太助を、伊織が窘める。

 遠慮のない太助の発言を普段なら俺も注意するが、これに関しては彼の言い分にも一理ある。

 とくに【ぶっちゃけ、モテる職業~】などというたわけたタイトルの企画は、中身を読まずとも却下に値するとわかる。

「和華さんはなんと言ってるんですか?」

 俺の不機嫌を察した伊織が、遠慮がちに尋ねる。

「まだ話していない」
「じゃ、僕が呼んできましょうか」

< 57 / 230 >

この作品をシェア

pagetop