因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました

 この場にいる弟子たちへの言い訳なのか、ムキになって和華が言う。

 確かに俺たちはまだ一度も夫婦の営みを実行に移していないが、弟子の前で極めてプライベートな事情を暴露され、なんとなく決まりが悪い。

「へえ。まだなんですね、意外」
「太助」

 案の定、太助が面白がるような反応を見せ、伊織に睨みつけられている。

 俺はゴホンと咳ばらいをし、和華をテーブルの方へ促すと、企画書を見せた。

「これ、和華はどう思う? 俺はすべて断ろうと思っているが……」
「えっ? ちょっとよく見せてください」

 和華は企画書を手に取り、じっくりと内容を目で追い始める。

 隣でその横顔を見守っていたら、すべてを読み終えた和華は瞳を輝かせて俺を見た。

「私は、断らない方がいいと思います」
「……どうしてだ?」

 迷わず断言した彼女が不思議だった。弟子たちを含め、誰も乗り気ではなかったのに。

「前に、実家の店がある商店街のお煎餅屋さんが、地上波のテレビに出たんです。でも、その紹介の仕方が『外観は汚いのに美味しい煎餅を焼く店』って、褒めているのか貶しているのか微妙な感じだったので、全国ネットで流れて大丈夫かなって商店街のみんなでハラハラしていたんですよね」

 なんと失礼な紹介だろう。俺なら絶対に断る企画だ。

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