因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
「本音としては、複雑ですけどね……。光圀さんの魅力が、不特定多数の人に伝わってしまうのは」
それはつまり、嫉妬……?
俺たちは夫婦だが、気持ちの面ではお互いにまだまだ未熟だと思っているだけに、和華の意外な告白に面喰らった。
気の利いた返事もできず固まっていると、太助が盛大なため息をつく。
「あ~、あほらし。僕たちのいるところでふたりの世界に入らないでください」
「べ、別にそんなこと……ないですよね? 光圀さん」
そう尋ねる和華の頬が赤いので、こちらまで照れくさくなる。
これでは師匠の面目が保てないと、俺はそっけなく告げる。
「和華、部屋へ戻って週末の香席の予習を」
「は、はい……」
しゅんとして立ち上がり、食堂を出ていく和華。
そのうなじにふわりとかかったおくれ毛を見ているだけで、胸がちり、と焦げ付くような感覚を覚える。まるで心に小さな炭団でも飼っているかのようだ。
「先生、今度の香席では和華さんに執筆をお願いするんですよね」
伊織の声で、我に返る。
弟子たちに向き直った俺は、静かに頷いた。