因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました

「ああ。筆で文字を書くのにようやく慣れて、今は暇さえあれば源氏物語を読んでいるところだ」

 土曜日の午後、俺はこの家に客を招待し、香席を設ける。

 客たちにはそこで『組香(くみこう)』と呼ばれる、いわば香りを当てるゲームを楽しんでもらう。

 今回の組香は、世界最古の恋愛小説、源氏物語にちなんだ源氏香。

 五十二通りある答えには、全五十四帖からなる源氏物語から巻頭の『桐壺』と巻末『夢浮橋』を除いた各帖の名前があてはめられている。

 香りを聞きながら、物語に思いを馳せる。そんな風雅な時間を招待客に楽しんでもらおうというわけだ。

 その香席で、香木を炷くのが俺の仕事。和華には俺の隣で記録をつける執筆者の役目をしてもらう。

 いつもなら太助に頼む仕事だが、和華自身が香道の世界をもっと知りたいと言うので、頼んでみることにした。

「なにか失敗して、恥をかかなきゃいいですけどね」

 自分の役割を奪われたのがおもしろくないのか、太助がふてぶてしく頬杖をつく。

「太助、失敗は恥ではない。失敗から目を逸らさず、修練を積んで次への糧とすることこそ大事だと、いつも言っているだろう」
「はいはい」

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