因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
俺の言葉が響いているのかいないのか、太助は不貞腐れたまま返事をした。
伊織がわかりやすく眉を顰め、俺はふたりに聞こえないように小さくため息をついた。
実は、三年前に太助を弟子にすると決めたのは、俺の独断である。
太助がいつまでもこんな態度を取り続けるのは、師である俺が至らないせいでもある。伊織にも気を揉ませて申し訳ない。
……心を鎮めなければ。胸の内で呟き、俺は立ち上がる。
「少し香間でひとりになる。伊織、その企画の依頼者たちに返事をしておいてくれ」
「はい。えっと……断りの返事を、ですか?」
「いや、違う。すべて受けると言っておけ」
俺の出した結論が意外だったのだろう、伊織も太助も目を丸くする。
俺の考えが変わったのは明らかに和華の持論に心動かされたからなのだが、それを弟子たちに気づかれると居たたまれないので、さっさと彼らに背を向け戸口へ向かった。
廊下に出たところで、偶然家政婦の楓子さんと鉢合わせた。
香道以外には無頓着な俺に代わり、この家を取りしきってくれる頼もしい存在だ。