因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました

 招待客を全員控えの間に案内し終え、お茶を出して接待する。

 しばらく経つと、光圀さんが挨拶にやってきた。淡い茶色の着物に鉄紺の袴を合わせた彼は家元の名にふさわしい威厳と風格を兼ね備え、いつもの何倍も凛々しい。

 しかし呑気に見惚れている場合ではない。光圀さんが来たということは、香木を炷く準備、灰手前が終わり、香席にお客様を案内する合図だ。

 招待客とともに一旦母屋から出て、庭を通って香間へ向かう。

 建物の前まで来ると、香間の入り口手前に設置された手水鉢で、手を清めた。

 それから主賓のお客様を筆頭に、入口で一礼して順に入室する。

 最後に光圀さん、私の順で室内に入った。

 私の席は、光圀さんの左隣。客たちはふたりずつ、壁を背にしてコの字型に座っている。

 香間へ入ったら、私語は厳禁。その厳かな空気に私はさらに緊張してしまうけれど、招待客はこういった席に慣れている様子で、ある程度リラックスした表情だ。

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