因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
「和華」
「……は、はいっ」
物思いに耽っていたらいつの間にか父はいなくなっており、隣の席の光圀さんが穏やかな低い声で私を呼んだ。同時に、披露宴の賑やかな喧騒が戻ってくる。
光圀さんは目の前に並んだ祝い膳の内、蛤のお吸い物が入った真っ赤な塗りのお椀を手に取り、私に顔を向けた。
「結婚式の祝い膳に、蛤の吸い物がよく用意されるのはなぜか知っているか?」
私は目をぱちくりさせ、「いいえ」と首を振った。蛤はひな祭りにも食べるし、縁起がいい食べ物なのだろうとぼんやり理解しているだけだ。
「蛤の二枚の貝は、別の組み合わせにしてしまうと絶対にぴたりと合わない。そこから、相性の良い男女の象徴にされるようになったんだ。正しい組み合わせの貝殻を多く見つけ出したものを勝ちとする〝貝合わせ〟という遊びも、平安時代から伝わっている」
「そうなんですね……。全然知りませんでした」
こんなに小さなお椀の中にも、日本の伝統文化が詰まっているんだ。