因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
「あの、大丈夫ですか?」
「大丈夫だから、俺が目を閉じて十数える間に逃げるんだ。一、二……」
固く目を閉じ、ゆっくり数を数え始める光圀さん。
光圀さんが怖いわけじゃない。でも、心の準備ができていないのも確かだった。
今の私にはなにもできない。自分の部屋に帰らなくちゃ。
布団の上でずりずり体を移動させ、光圀さんの腕の隙間から抜け出す。
「七、八……」
立ち上がり、廊下へ続く襖に手をかける。けれど、私は少し考えてその手を下ろし、室内へ戻った。
光圀さんの前に正座し、彼が十数え終わるのを待つ。
「十」
光圀さんが目を開ける。いないはずの私を捉えた瞳には「なぜ逃げなかったのか」と責めるような色はなかった。
観念したように息をつくと、私の正面に片膝をついて座る。
「……俺が怖くないのか?」
そう問われながら瞳を覗かれ、私は迷わず頷いた。
「光圀さんを怖いと思ったことは、一度もありません」
「俺の起こした炭が、目の前で爆ぜた時も?」