因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました
悲しげな目をして、光圀さんが問いかけてくる。
やっぱり、この部屋を出ていかなくてよかった。
彼を苦しめる過去の亡霊は、まだ完全に消え去っていなかったのだ。
「あれは故意ではなかったんですから。怖いと思うはずありません」
光圀さんを苦しめる亡霊よ、いい加減あきらめて去りなさい。
心の中で呪文のように唱えながら、きっぱり告げる。
「そうか……すまない、しつこく思い出させて。きみはすっかりあの痛みを乗り越え、他者を思いやれる素敵な女性に成長しているというのに、俺はダメだな」
「はい。ダメです、本当に」
本気で怒っているわけではないが、あえて同調し、口をとがらせる。
光圀さんはようやく表情を緩め、クスクス笑ってくれた。
「悪かったよ。どうすれば機嫌を直してくれる?」
「それくらい、自分で考えてください」
ツンとした態度で突き放した直後、光圀さんの両手が頬を包み込んだ。
微かに上を向かされ、甘い口づけが触れる。
「……機嫌、直ったか?」
光圀さんは一度唇を離し、囁くように告げる。細められた目がとても煽情的で、体の芯に経験したことのない疼きが生まれた。