因縁の御曹司と政略結婚したら、剝き出しの愛を刻まれました

「もちろんだ。きみの望むことは、すべて叶えたい」

 誠意は感じるのに、その出どころが単なる愛情ではないというのがハッキリ伝わってくる言い方だった。

 やはり、光圀さんは罪滅ぼしのために私を妻にしたのだ――。

 彼の胸中を思うと複雑だけれど、結婚生活はまだこれからだもの。ゆっくりでいいから光圀さんを知って、いつか彼の心に触れたい。

 私は気持ちを新たにしながら、縁起のよい蛤のお吸い物をしみじみ味わった。


 披露宴が幕を閉じ、来賓の見送りまで終えると、料亭の一室を借りて普段着に着替えた。

 和服用にアップにしていたセミロングの髪を下ろして簡単に整え、落ち着いた深緑のシャツワンピースに身を包む。

 支度を終えて廊下に出ると、ちょうど光圀さんと一緒になった。

 彼ももちろん着替えたけれど、その身に纏うのは洋服でなく和服。濃紺で揃えた着物と羽織り、帯は献上柄のグレー。

 身も心も引き締まるような結婚式の正装とは違って、大人の色気とはかない風情を漂わせている。

 こんな素敵な人が私の旦那様になっただなんて、まだ実感がない。

 慣れないふたりきりの空気に沈黙しているうちに、料亭の女将がタクシーの到着を知らせにやってくる。

 女将にお礼を言ったきりまた無言になった私たちは、店先でタクシーに乗り込んだ。

< 9 / 230 >

この作品をシェア

pagetop