君しかいない
 断る理由も見つからず、半ば強引に道辻さんとの会食を設けられてしまった。
 モヤモヤした気持ちのまま部屋へ戻り、ベッドへダイブする。

 突然お見合いしろだなんて、父はどうかしている。そりゃあ仕事も慣れたし順調で、最近は少し手抜きしている時もあったけど。
それなりに充実した毎日を送っていて、社会を知らないまま大学卒業と同時に政略結婚せずに過ごせていただけ有難かったのかもしれないけど。
 どんな人かも分からない相手と結婚するなんて、やっぱり嫌だ。相手の方だってわたしのことをろくに知りもしないのだから、結婚しても互いに愛情なんて湧くはずがないもの。

「あぁ、もぉっ。成瀬! 成瀬いる?」

 成瀬を呼べば、廊下からノックされドアが開いた。

「お呼びでしょうか」
「眠れないの、どうにかして。ホットミルクかココアが飲みたいわ」
「勤務時間外の若林さんは既に帰宅しておりますので、私がココアを淹れてまいります」

 一旦退室した成瀬がココアを淹れ、再び部屋へやってきた。ベッドから起き上がり、成瀬から差し出されたココア入りのカップを受け取り口元へ運ぶ。
 温かいミルクで作られた甘いココアは、わたしの乱れた心を落ち着かせ穏やかにしていく。
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