君しかいない
 抵抗虚しく、父の策略により会食の席はすぐに設けられた。
 仕事帰りに迎えに来ていた成瀬に連れられ、問答無用で指定された場所へ向かっている。
 後部座席に座り機嫌悪さを表すように、バッグの開閉部分の金具をカチカチと弄り、わざと耳障りな金属音を立てている。けれど成瀬は、そんなわたしのことを気にとめていない様子で平然と運転していた。
 いつもより少しかしこまった洋服を着ているのは、今朝起きた時に成瀬から渡された服。今夜のために用意されたもので、綺麗なパステルピンクはパッと見の第一印象で可愛く見えると計算され、わたしの粗を隠す為でもあるのだろう。本来わたしが着る機会も少ない色味のもので、明らかに相手の好みに合わせた感丸出しな気がするのも腹が立つ。

「わたしは着せ替え人形じゃないんだから。こんな可愛い服……似合わない。わたしじゃない」

 ピラッとスカートの裾を指で摘み、パッと離すこと数回。ムスッとしながら唇を尖らせているわたしに、ルームミラー越しで気づいた成瀬が話し出した。

「お似合いですよ?」
「成瀬だって本当は変だと思ってるんでしょ。なんでこの服選んできたのよ、成瀬のバカッ」
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