君しかいない
 初めて成瀬と出会った頃、わたしは可愛くない高校生だったと思う。幼少の頃から社長令嬢という肩書きに惹かれ、甘い蜜を求める蝶のように近づいてくる人が殆どだった。親しい仲だと思っていたのはわたしだけ、なんてことは常であり美味しい思いをしてわたしを利用するだけ利用し、裏切っていく人ばかりの日々に嫌気がさしていた。
 腹黒い人間関係に触れて生きてきたことで誰も信用出来なくなり、高校進学時わざと派手な髪色に染め下品なメイクを施し短く切った制服のスカートを履き。乱暴な言葉を使い誰が見ても社長令嬢とは思えない荒れた高校生となり、壁を作り近寄り難い「わたし」を自ら演じ他人との距離をとっていた。
 東堂家の使用人達も令嬢らしくないわたしの顔色を見て機嫌をとり、腫れ物のように扱うから余計に苛立ちが積もった。けれど、いつ何時もわたしから離れず傍で仕えていたのが執事修行中の成瀬だった。

「真尋様には似合いません、即刻おやめください」

 時には間違いを正そうとしてくれたし、助言を素直に受け入れると褒めてくれた。成瀬に褒められると、何故かくすぐったくて素直になれなかったけれど。やはり誰かに褒められることは嬉しいことだと成瀬に教えられ、作り上げた壁を徐々に崩されていた。

「アンタもわたしに取り入って、待遇良くしてもらいたいだけでしょ」

 なんて、成瀬に悪態をつくことが日常茶飯事でも。成瀬は匙を投げることなくとことんわたしに付き合ってくれて、向き合ってくれた。どんなわたしでも受けとめ理解しようとしてくれていると感じていたから、社会勉強と称された受付嬢の仕事に就く際父に就職祝いとして成瀬をわたし専用の執事にしてもらった。
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