君しかいない
 一日の出来事を成瀬に話すようになったのは何時からだろう。成瀬は黙って最後まで聞いてくれるから、わたしは言いたい放題吐き出し一日のストレスを消化している。

「成瀬は? 今日なにしてたの?」
「天気が良かったので庭師の源さんのお手伝い等をしておりました」

 庭師の仕事は庭師が行うことで、成瀬が手伝う必要はないのではないかと不思議がると「私は真尋様の執事を務めておりますが、東堂家に仕えている身にかわりはございません。微力ながら他の皆さんと助け合い、東堂家をお支えしております」なんて、口の端を軽く上げながら言うのだ。そんな成瀬の余裕の笑みが、わたしの神経を逆撫でする。

「……ねぇ、今わたしのことバカにしたでしょ? なーんにも知らない女だなぁとか思ったんでしょ?」
「いいえ」
「ほら、今も口の端が笑ってる。もぉ、こっち向けっ」

 両手を伸ばし成瀬の頬に両手を添え強引にわたしの方を向かせれば、成瀬の視線が真っ直ぐにわたしを捕らえた。
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