君しかいない
「……そのような行為はお付き合いをしている、本当に好きな方とでなければ意味がありません。好意も無い相手と軽々しくなさってはいけません」
「分かってるわよ。でも成瀬とは長い付き合いで。わたしは成瀬のこと好きだし、成瀬も長年わたしに仕えてるんだから嫌いじゃないでしょ? 成瀬はわたしの執事だから、わたしが成瀬に何を望んでもいいじゃない」
「よくありません。真尋様が思っている付き合うと好きの意味は違っていますし、そもそも主人が執事にキスなど……はぁぁ」

 いつもわたしを上手い具合に諭すくせに、話も途中で目元を手で覆い何故か成瀬がヘコんでいる。それに耳が真っ赤だし、どうしたのだろう。いつもの成瀬とは少し反応が違う気がする。

「成瀬?」

 顔を覗き込むと、大きく深呼吸した成瀬が再びわたしに顔を向けた。

「真尋様、今起こったことはお互い忘れましょう。何もなかった、何も起きなかった、いいですね?」
「どうして? 別に誰かに知られてもわたしは」
「よくありません!」

 何故そんなに否定したいのか分からないけれど、とにかく成瀬としては無かったことにしたいわけか。
 でもわたしは高校生の頃から考えていたの、初めての相手は気心知られている成瀬がいいなって。だから、わたしにとっては当然のことでしかなかったのに。
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